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本書の概要に代えて文芸評論家の講評を掲載します。 |
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今世紀の初めから、中国の各地でさまざまな活動を続けてきた著者の半世紀を拝見した。いわゆる自叙伝ふうに纏められた記録だが、音声や動画をふんだんに取入れ、電子書籍ならではの狙いにアイデアマン著者の一面を窺うことができる。中国での活動は10年余りであるが、本作はその端緒ともなった1960年の出来事から語り起こされる。表題にある「れんげそう」は播磨の俳人・滝瓢水の「手に取らでやはり野に置けれんげ草」の句に由来するというが、仮名書きとした「はんせいき」は「半生記」と「半世紀」を掛けたものなのである。
まず面白いのは、著者が中国と関ることとなった経緯である。1960年著者は『暮らしのカードシステム』デイリークッキングを制作。これを当時の松下電器社長・松下幸之助に送ったところ、なんと直筆の礼状が届いたという。こうして松下電器との縁が出来た著者は、その後、同社の依頼を受けて1970年から25年間、松下電器商学院の土曜講師を務める。95年にはパソコン教室を開講。その教室が縁となり、集まった中小企業社長や大企業幹部と松下幸之助に学ぶ会“尚友塾”を立ち上げる。そして98年、北京・上海で松下幸之助展が開催されることとなり、尚友塾はツアーを敢行。この訪中の際、中国の若者の向上心に感銘を受けた著者は『松下幸之助のことば』=〈松翁論語〉の中国語版CD-ROMを制作したのである。そうしたところ、2001年、これを見た中国家電No.1メーカー海尓集団の張瑞敏CEOから声が掛かり、招聘されることになるのだ。 著者も運命論者ではないとはいうが、松下幸之助氏に導かれた、何か運命的なものを感じてしまう成り行きである。
のちのトステムとの提携の基礎をつくるなど、海尓の顧問としての仕事ぶりも目を瞠るものがあるが、著者の活躍はそれに留まらない。おそらくその手腕は自ずと周囲に知られていったのだろう。大連では青少年教育アドバイザーとなり、大連職業技術学院の客員教授ともなって、新設された自動車整備学科へのホンダの支援を取り付ける。
EXPO06瀋陽世界園芸博覧会の日本向けPR誌、瀋陽市の企業誘致活動のパンフレット制作。高級経済顧問に就任した临沂市誌では、当地に所縁の諸葛孔明を用いた、やはり日本向けのPR誌を制作している。大阪市水道局と関経連による北京での「水環境フォーラム」への協力とその後の提言。
さらには、相談を受けたアイススティック製造会社は自ら陣頭に立って事業を拡大した。ほかにも日本のおとぎ話の中国語版アニメDVDの制作や、ビジネス日本語本の出版など、まさに八面六臂の活躍である。中国の企業の発展や地域の振興、日中の文化や技術の交流など、多彩な分野で大きな事績を残したことが窺える。
電子書籍だからこその特徴=本文に関する資料をタップすることで同時に見ることができるなど=この媒体のもつ特性を巧く生かした本篇は新しい出版方法の先駆けとなることだろう。全体に良く整理されており完成度の高い仕上がりとなっている。著者の中国での活躍と、日中を繋ぐ働きには頭が下がる思いである。
既に傘寿を超えた著者が、さらにフィルードを広げて前進していこうという気概にも恐れ入る。著者も述べるように、日中関係が冷え込む昨今ではあるが、著者の活動はそこに一つの希望を感じさせてくれるものだ。有識者のかたがたの力添えを得てさらにさらに広く世に発信していきたいものである。 |
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